『捕食者なき世界』
日本各地でシカの増加による農作物被害や森林内生態系の破壊が深刻な状況になっていますが、この本は世界各地での、大型捕食動物絶滅後の生態系についての調査結果をまとめたものです。
いま日本が直面している問題が世界各地でも同様に起きているのだということは大変興味深いです(安直に当てはめるのは危険ですが)。
日本のここ数十年のシカの急増は国の林業政策やメスジカ保護、狩猟者の減少など、様々な要因がからみ合ってのものだと考えられますが、オオカミが絶滅しているということはやはり一つの大きな要因だと思います。
この本の中で興味深かったのは、「オオカミに襲われるかもしれない」という恐怖でシカの行動が制限されるという話です。それにより、シカが採餌しにこなくなる土地が増え、そこの植物群落が復活するという、実際の捕食数以上の効果があるとのことです。これなどは猟期の3ヶ月だけ獲物を捕獲する猟師では代替できない効果だと思いました。
あとは、ハンターが大型捕食動物の代わりをできないという理由として、大型捕食動物は弱った個体や捕まえやすい個体(老齢個体や子ども、怪我をしている個体など)を中心に捕食するため、シカなどの個体群の健全性も維持できるが、ハンターは立派な大型個体ばかり捕りたがるので、その点でも期待できないとの記述があり、それも考えさせられました(まあ、私の場合はかしこいイノシシには罠をよけられていますので、その指摘も当てはまりませんが・・・)。
また、シカなどが増えすぎることで実のなる草や木ノ実が食べつくされ、クマなどの生息数も減っているというデータも興味深かったです。私の猟場でもクマではありませんが、シカが増えすぎて笹薮が減り、ドングリも減って、その結果、隠れる場所や餌が不足し、イノシシが来なくなったところもあります。
この本の中でアメリカ大陸では、ハンティングの対象のシカを増やすためにも、狩猟者が率先して大型肉食獣を根絶したという話がありました。これを読んで、日本でオオカミが絶滅させられた時に狩猟者がどういう意図を持ってどういう役割を果たしたのかという点にも興味がわきました。